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　　　　　　放射線・放射能はなぜ怖いか



　放射線・放射能が怖い存在だというのは皆が知っています。でも、人体が浴びればどのような障害を生じるのか、説明を受けていない人がほとんどです。したがって質問されても説明ができません。
　このじれったい現状を改めるべく、理解できる説明をするのは被爆者の責務のひとつだと思います。私自身は被爆していませんが、父は広島の爆心地で死亡し、母は父を探すために直後の爆心地を歩いて残っている放射線を浴びました。
　母はそのために終身苦しみました。それを見てきた私は何らかの啓蒙運動をする義務を感じています。放射線による被爆者は両親の世代で終りとなるはずでしたが、ロシアのチェルノブイリ原発・茨城県の東海原発・福島県の福島原発で同じ被曝がくり返されています。


　火に触ればヤケドします。刃物に触ればケガをします。毒物を飲めば内蔵を壊して死に至ります。いずれも教育と経験によって習得できますし、また目で見れば危ないと判断できます。では放射線はどのような障害を身体に与えるのか、これが本稿のテーマです。


　まず放射線とは何でしょう？　これは発生源から飛んでくるもので、光に例えられます。太陽でも電球でも、光を発生して四方を照らします。また光の邪魔をして陰を作る事もできます。最も身近な放射線は病院でのレントゲン撮影ですね。

　レントゲン撮影は放射線を光の代わりにして人体を写真撮影します。光と異なるのは人体を突き抜けてフイルムを感光させ、人体の中の様子を見ることができることです。レントゲンでの放射線は非常に微量なので健康に支障を与えないとされています。ただし、レントゲン撮影を仕事とするドクターや技士は接する回数が多いので必ず別室に逃げることになっています。


　ここで放射線と放射能の説明をしましょう。二つの言葉は意味が違いますので勘違いしたままだと話が誤解されます
　放射線とは、光のように発生源から四方へ進み、人体にあたると害を与えます。
　放射能とは、放射線を発生するモノという意味です。つまり発生源のことです。特にホコリや食べ物に含まれて人体に入って害を与えるものに使われます。典型は空中に浮かぶホコリですが、これを吸い込むと身体の中に残り、内部で放射線を出し続けます。どちらも身体が放射線を浴びることは同じですが、放射線は一時的なものなのに放射能は長期間にわたることが異なります。
　雑談では混用しても問題になりませんが、ここでは正確を期して放射線を基本用語とします。

　では、放射線は何が怖いのでしょう。理由は二つあって、ひとつは身体を損傷する方法が異なること。二つ目は放射線を浴びていることが自分に判らない、ということです。


　第一の、身体を損傷する方法が異なる、について

　身体を損傷する方法はいろいろ想像できます。火でヤケドする、刃物で切る、押しつぶされる、伝染病の細菌を食べる、など身近に沢山あり、その状況も想像できます。
　では放射線はどのように身体を損傷するのでしょうか。一言でいえば、身体を造っている材料を変える、ということです。
　私たちの身体は、骨はカルシウムを主体に、他の筋肉・血管・皮膚・血液など、タンパク質をはじめいろいろな材料でできています。日常のケガや病気ではこれらが変わることはありません。骨は折れても骨ですね。
　放射線は身体に当たってもなにも壊しません。その代わり身体を造っている材料を変えて他の物にします。骨に当たればカルシウムを他のものに変えるので、固くて丈夫な骨が軟らかくなれば骨として役に立たなくなります。
　骨が骨でなくなり、皮膚が皮膚でなくなり、血液が血液でなくなったら、゛私たちは死んでしまいます。放射線を多く浴びると死ぬことになりますが、多くの場合は少量の放射線を浴びていろいろな障害に苦しむことになります。
　考えてください。血液の1％が血液でなくなったら、残りの99％で仕事は出来そうですが、変わった1％がどんな障害を起こすか想像もつきません。皮膚に放射線を浴びるとケロイドと呼ばれるただれた状態になります。報道では放射線によるヤケドと説明していますが、ヤケドではありません。皮膚の一部が皮膚でなくなった状況です。
　このように、何も壊さずにその材料を変える、というのが放射線の本質です。本当に怖いですね。もう一つ怖いのは、変わった材料は元に戻らないい、ということです。骨折などのケガや病気は治療すれば回復しますが、材料が変わったものは元に戻りません。すなわち放射線の障害は治療方法がないということです。

　放射線の障害は浴びた放射線の量の合計で表します。単位はｼｰﾍﾞﾙﾄ。ふつうは1時間あたりの量で表し、μSi／h（ﾏｲｸﾛｼｰﾍﾞﾙﾄ/毎時）を使います。そうして積算量が自分の身体が壊れた程度を表します。これは一生かけて積算することになります。

　身体の中で放射線に一番弱いのは何処でしょうか。放射線の種類（ｱﾙﾌｧ線･ﾍｰﾀ線など）にもよりますが、生殖器だとされています。女性はその卵巣の中に一生涯に必要とする卵子を持っていますから、放射線を受けると大きな損傷を受けます。
　しかもその損傷が判るのは赤ん坊が生まれたときです。ですから子供を産む前の女性は放射潜に近寄ってはいけません。逃げるしか防ぐ方法はありません。
　男性は睾丸になりますが、精子は必要の都度造られるので被曝の心配はありません。ただし放射線を浴びると精子を造る機能が低下して、製作不能または不良品発生となります。これも産まれる赤ちゃんに障害を発生させます。

　この第一には補足がありますが最後に記します。


　第二の、放射線を浴びても判らないこと、について

　私たちの身体は放射線を浴びても自覚がありません。東海原発で被曝して死亡した人の証言では、青い光が見えた、とありますが、これは目に入った放射線が屈折して網膜に青い光として届いたものとされています。それほどの量は致死量とされています。

　自覚症状がなければどうすれば放射線被曝を防げるでしょう。計測器を身体に着けるしかありません。原発などの作業員は計測用バッジの着用が義務づけられています。

　前に記したとおり、被曝量は積算します。その合計が自分の被曝量で、程度によって症状が重くなり、最後には死亡します。
　これを記入時の福島原発の正面入口の放射線量は0.353マイクロシーベルト／時、です。　


　原発で働く作業員のバッジ着用と被曝量の計算は業者に任されていて、公的機関や東京電力はタッチしていないと報道されています。自主管理では管理がルーズになりがちなのと、作業員自身が被曝量を過少報告することも報告されています。
　また作業員は被曝量が限度を超えると、以後は被曝現場で働くことが出来なくなるので、バッジが敬遠されるとも聴きます。
　この被曝管理は全国の従事者を政府が直接行うべきです。健康保険と同じように国民の健康状態の把握は重要です。

　放射能で汚染された地区への帰還が報じられています。生活の場であった所へ帰りたい心情は判るものの、大変な問題だと考えます。
　帰還すれば24時間、365日を被曝しながら生活することになります。その積算量が自分の障害量ですから、ここまでは大丈夫という被曝限度はどこまで信用してよいのか私にはわかりません。
　また帰還を認めるにしても年齢制限が重要です。人生の将来を考えると子供は除くべきです。また子供を産む年代も同じです。子供を産まない年代は帰還10年後、20年後に障害が出ても本人が納得すれば済むことになります。

　除染という言葉もまやかしだと思います。住宅や農地の汚染土を除いても山林や原野はそのままで放射能に汚染されています。それが水に入り、風に乗っていくらでも供給されます。無限のイタチごっこです。

　要するに放射線には、近寄らない、逃げる、の方法しかありません。目に見えない相手ですから被曝の可能性があれば被曝管理を厳重に行うべきです。



　第一の補足、身体の材料を変える、について

　物質を造る最少の物は原子です。水素からウランまでの92が自然に存在する原子です。原子は陽子・中性子・電子で構成されており、その数によって何の原子か決まります。
　最も軽い水素は、陽子・中性子・電子の構成が1-0-1、最も重いウランは92-146-92、となります。身近な炭素は、6-6-6、です。この構成数字が一つでも変わると別の原子になります。
　放射線はこれらを構成する、陽子・中性子・電子がバラバラに飛んで来るものです。上の炭素原子に飛んできた陽子が一つ加わると、構成が6-6-6から7-6-6となって炭素ではなく別の原子になります。
　このように放射線を浴びると、身体を構成する原子が変わります。骨のカルシウムがカルシウムで無くなるわけです。
　以上の現象を説明するのに、身体を造っている材料を変える、と表現しました。





　　　　　　　　　放射線・放射能はなぜ怖いか　　－終－


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